039魔術師のおい

魔術師のおい―ナルニア国ものがたり〈6〉 (岩波少年文庫)
 今までは、ナルニアキリスト教をベースにしてあると言われても、ピンと来ていませんでしたが、この巻ではそれを強く意識させられました。アスランのものいう獣の選出方法は、まさに「ノアの箱船」です。ナルニアの開闢シーンは荘厳で独特な雰囲気があって、シリーズ中でも印象深いシーンとなりました。
 ディゴリーは、禁断の鐘を打ち鳴らし、悪を解放してしまった償いとして、アスランから試練を与えられます。子どもの本なんだから、きっと最後はうまくいくはずと思っても、痛みを乗り越えて試練を果たすディゴリーの行動にはハラハラさせられました。他の巻でも、意地悪、自己中心的、愚かなどのという欠点があったエドマンド、ユースチス、シャスタ、ジルは、その欠点ゆえに克服する機会を与えられられます。そういう意味で、彼らは他の「心正しき人々」より深いところでアスランに愛されていることを感じました。
 主人公を魔法の世界へ導く老人と言えば、「賢者」であることが多いと思うのですが、アンドルー叔父はどうしようもなく鼻持ちならない小悪党だったのが面白かったです。ディゴリーがいちいち心の中で突っ込んでくれたのでまだ救われましたが、ポリーを騙して異世界へ飛ばしてしまった言い訳にはものすごく腹が立ちました。しかし、最後には意外と穏やかな晩年を過ごしたようで、作者の「人間」というものに対する懐の深い眼差しを感じます。最初は「このジジイ許し難し」と思った私も、ナルニアでさんざんヒドイ目にあったことで悪印象もだいぶ薄れて、素直に良かったと思えました。