馬と少年

馬と少年―ナルニア国ものがたり〈5〉 (岩波少年文庫)
 戦争、大航海、地底探検ときて、今回はアラビアンナイトの世界です。冒険ファンタジーの舞台の定番を網羅しつつ、シリーズとして読者をあきさせない著者のエンターテナーぶりに脱帽です。キリスト教の教理に支えられた真面目な物語という先入観は、いったい何だったんだろう。
 ナルニア人が主人公になるのは、なにげに初めてですね。この巻の主人公シャスタには、相棒になるものいう馬のブーリン、自分と同じ顔のコーリン、旅の道連れとなる少女アラビスなど、対になる人物が多く登場します。シャスタ以外にも、アラビスとフィン、ブーリンとフィンなど、それぞれ絆の有り様の異なる組み合わせが見せるドラマが面白かったです。特にシャスタとブーリンの立場が劇的に反転して以降、ブーリンの葛藤する様にびっくりさせられました。シャスタと同化して導き手としてブーリンを信頼していたので、そのブーリンが完璧ではないと知らされて、目からウロコが落ちる思いでした。
 「朝びらき丸」でアスランが出張りすぎと思ったのですが、それ以降、アスランは常に物語に重要な地位を占めつつも、それとない登場の仕方で、上手いと思います。本作品でも、読者に「もしかして」と思わせつつ、実は、と明かすカタルシスがあって良かった。
 大団円で、コルとアラビスが結婚したのは予想通りでしたが、フィンとブーリンが別の伴侶を得た、というのも嬉しかったなあ。ブーリンにはフィンはもったいな…いやいや、物語の登場人物の中だけでカップルになるんじゃなくて、拡散していく方が世界が開ける感じがして好きなんです。