アイスクリン強し

アイスクリン強し
 文明開化華やかなりし明治、居留地で西洋菓子店を開業した青年とその友人たちが遭遇する事件を描いた連作短編集です。主人公たちを江戸を知らない明治生まれに設定することで、かえって、何もかもがめまぐるしく変わっていくことに対する戸惑いや、時代に取り残された人々のやるせなさが浮かび上がっていました。明治という時代を、当時はものめずらしかった西洋菓子を題材に描くというのは畠中恵らしくてよかったです。
 ただ、ところどころ作り込みが甘いように感じられました。しっかりものの真次郎が、一度不審者を目撃してるのに、大事なパーティーの食材に見張りをおかないとか、自立した女性として描かれている沙羅がタブロイド紙の記事を鵜呑みにして主人公に暴力を振るうとか、話の都合で登場人物の振る舞いが不自然に見えるところがありました。そのエピソードもテンプレートをそのまま使用した感じで物足りない。エピローグとプロローグで示された物語をくくる謎解きも、意味がなかったし。時代にうまく対応できなくて右往左往していた小弥太を縦糸に据えた方が全体に締まったんじゃないかな。せっかく面白いキャラクターと設定だったのに、コレラ騒動からその後が書かれなくて消化不良でした。
 長瀬が「まるで立ち回りのようだ」と評した真次郎の料理シーンの筆致は、スピードと緊張感があってよかったです。