ツチノコの民俗学

ツチノコの民俗学―妖怪から未確認動物へ
 私は山へ行くと、ちょっと本気でツチノコが怖いのですが、ツチノコの怖さは「飛ぶ」ことにあると思います。本来は地面を這う存在が「飛ぶ」というのはルール違反です。あれですよ、地を這うゴキブリがイキナリ飛びついてくる怖ろしさに通じる。いないだろ、とつっこみつつも「もしかすると…」と思わせられるツチノコの生態(キャラ設定?)は、ほんと良くできてるなあ。
 「妖怪」と「未確認生物」のもやっとした違いを再確認しました。実体(というか「実」がなくてもと言うか)が同じでも時代による社会通念でとらえ方も変わってくる…「妖怪」や「未確認」の言葉そのものの概念も変わってくるし…ということが通して読むと腑に落ちてくるうまい作りです。水木しげるがなぜ「ツチノコ」を蛇の姿で書かなかったのかという論考はなかなか刺激的でした。
 「ツチノコ」が、「蛇」という生物の側面と「槌」という器物の側面を持っていることを豊富な言い伝えや文献から浮かび上がらせる一方で、現在私たちがよく知っている「ツチノコ」像が浸透した過程を「山本素石」という人物に焦点を当てて詳述していて、一冊でいろんな角度から楽しめました。