大阪松竹座狂言の会「福ノ神」「狐狗狸噺」「東は東」

大阪松竹座2等席3階3列30番
 3階席で舞台を上から見下ろす形の観劇でした。
 「福ノ神」裕福な商人が連れ立って参詣し、福の神に富貴を願う。すると福の神が現れて、奉納のお酒をねだって舞を舞うというもので、人間国宝茂山千作さんが演じる福の神が本当に福々しかったです。「ハァ、ハァ、ハ、ハ、ハ」と笑いながら出てくるだけで、場内も思わず笑ってしまうような、めでたいオーラが出ていました。ただ、ストーリー性はあまりないので、慣れていないと少し退屈してしまいます。
「狐狗狸噺」京極夏彦原作の新狂言。何もかもうまくいかずに行き倒れた男が拾った長者の娘がやたらと図々しいのが笑えます。世相を皮肉ったオチがついているのが狂言らしいというか京極さんらしいというか。
「東は東」日本に漂流してきた中国人の男と、日本人妻の、とても悲しいお話でした。何年たっても日本になじめず、故国の妻を懐かしむ男と、なんとか日本人らしくしようとあの手この手を駆使する女。どちらも相手を思う気持ちが足りずに行き違ってしまう心が、笑いの中で描かれるのですが、なんというか、ものすごくやりきれません。男を無理矢理日本人にしようとする女は、ひどいようにも見えますが、どうしても憎めないのは、女なりに男を愛しているからなんじゃないかなと思います。意固地なまでに中国にこだわる男も、自分ではどうしようもない状況に、周囲の何もかもが見えなくなっても仕方がないのかもしれません。どちらにも同情できる部分があって、東は東、お互いに分かり合えぬという身もフタもない結末にどんよりしてしまいました。