第二十一話「綿胞子」

脚本 山田由香
絵コンテ 成田歳法
演出 成田歳法
原作 『蟲師』2巻「綿胞子(わたぼうし)」p183〜

蟲師 (2)  アフタヌーンKC (284)

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 「蟲師」で一二を争う怖い話…だと思っていたのですが、8巻の「泥の草」で首位の座を譲ったかな。
 絵コンテはざっと描いた感じで白いんですが、きっちり描いてあるところはよくまとまっているので、絵の上手な方だと思います。原作との台詞の異同は全くなし。夫婦がギンコを呼んで話をするところで、原作では赤子の他の兄弟も一緒に聞いているのですが、オンエア版ではいません。まあ、普通子どもに聞かせたい話じゃないから、遊びに出すのが当然ですよね…と思ってたら、よく見たら近くにはいるようでした。
 絵コンテでは夫の名が「ヤスケ」となっています。原作では名前は出てきません。このヤスケさん、すごい人間のできてる人だと思います。普通、妻が緑のヘドロ状生んだら嫌になると思うし、得体の知れないものを妻が望むからと育てたりできません。よっぽど奥さん愛してるんだろうなあ。異変が起こるとすぐにギンコに連絡を取るところといい、決断力もあって、生活力もありそうです。「身重の人の体内に寄生する」ということは、お嫁入りしたときにすでにあきさんは身籠もっていたんですよね。いったいこの二人にどんなドラマがあったのか、気になって仕方がありません。床下から半年ごとにわいて出る赤ん坊を可愛がっちゃうあきさんは、すでに心のバランスを一部崩しているようなんですが、ヤスケさんに支えられて、どうか穏やかな日々を過ごして欲しいです。
 ギンコが長男ワタヒコを安楽死させる「恨んで…いいのにな」のところで、(※哀れみにならない程度に)と注釈が入っています。この回は、人間と蟲との関わり合いの一番厳しい部分が描かれていて、ギンコという人間の一面を見ることができます。ギンコは蟲が「好き」なんだろうけれど、それは「可愛い」という上から見下すような感情ではなく、食うか食われるかという生存競争の対等な相手として見ています。自分が「人間」であることに自覚的で、もっとも優先すべき「命」は同族である人間だと割り切って「強いものが勝つ」と冷静に宣言しています。かといって弱肉強食と嘯くわけでもなく、命が他の命を脅かさないぎりぎりのところまで共存しようとするヒューマニティと冷静さがギンコの他にない魅力だと思います。