101みどりのゆび

みどりのゆび (岩波少年文庫)

みどりのゆび (岩波少年文庫)

 町一番のお金持ちの家に生まれたチト少年は優しい両親に大切にされ、なに不自由なく暮らしていました。8歳になって学校に行きましたが、「他の子と同じでない」という理由で返されてしまいます。チトのお父さんは、チトに物事を観察して学ぶことを教えるため、家庭教師をつけることにしました。一人は庭師ムスターシュ、もう一人はお父さん持っている兵器工場の工場長かみなりおじさんでした。ムスターシュはチトが、すべての植物の種を芽吹かせる「みどりのゆび」の持ち主であることに気がつきます。チトはムスターシュに教わりながら、「みどりのゆび」を人々のために役立てようとするのでした。

 普通こういうお話だと、「お父さん」はチトのことを理解しない愚かな人として描かれるのだろうけれど、チトの教育方法を見ても分かるように、チトの父親は、とても賢くて立派な人です。それなのに、チトを伸びやかに育ててくれた環境は、兵器を作ってできたお金で支えられているのです。優しい子どもに育ったチトは、お父さんの作った兵器で二つの国が戦争をするのを止めるために、自分の力を使いますが、それは父親の工場閉鎖の危機を招いてしまいます。物語の結末は、童話らしい見事な大団円におさめられていますが、「おとうさん」が死の商人であったという矛盾はとげになっていつまでも心に突き刺さるのでした。
 「戦争」と「死」という重いテーマを、無垢な少年と可憐な草花を通して童話に仕上げたもので、読後感は単純ではありません。おそらく、読み返すごとにいろいろなものを見つけることができる物語だと思います。あのラストの意味は、今の私には上手く理解できませんでした。