アウルクリーク橋の出来事/豹の目

アウルクリーク橋の出来事/豹の眼 (光文社古典新訳文庫)
ウルクリーク橋の出来事 良心の物語 夏の一夜 死の診断 板張りの窓 豹の目 シロップの壷 壁の向こう ジョン・モートンソンの葬儀 幽霊なるもの レサカにて戦死 チカモーガの戦い 幼い放浪者 月明かりの道

筆致は極めて写実的なのに、全体を眺めると幻想的に見えるという特徴は、先日NHK-BSプレミアムで特集番組をしていた若冲に似ていると思いました。けれども、若冲が細部に偏執的にこだわるのとは対照的に、ビアスの描写はそっけないほど簡潔です。手法は正反対に思えるのに、あんまり「現実」に近づきすぎると、かえってリアルから離れてしまうという効果はよく似ている。小説や絵画の「リアリティ」というのは、媒体に応じて施される「フィクション」の効果なんだなあ、と改めて実感しました。
ビアスの小説の怖いところは、文章は具体的で簡潔明解なのに、何が実際に起きたことで、どこからどこまでが登場人物の主観なのかわからないところにあると思います。例えば、「豹の目」は、本当に子殺しが起きたのか、すべてが女性の妄想なのか、もしかすると妄想に冒されていたのは実は男性の方じゃないのか、それとも半人半獣の化け物が実在したのか、様々な解釈が可能です。読者はそれらの解釈の中から、自分にとって最も恐ろしい解釈をして恐怖に震えるのでしょう。私には、なにが真実かわからないことで、恐怖の質が不明であることが、一番怖かったです。