おさがしの本は

おさがしの本は
 人は、自分の詳しい分野だとついつい知ったかして細かいツッコミを入れて悦に入ってしまうモノで、そういうのはやーらしーよなーと思いつつ…え〜い、やっぱり言っちゃえ(笑)。
 気になったのは2点。
 レファレンスの何がおもしろいかというと、どんな相談にも、その人の、大げさに言えば「人生」が垣間見えるところだと思っています。逆に、その人の「人生」が、まったくかかってこないレファレンスに答えるのは、ひどく徒労感に包まれるものです。クロスワードパズルの答えを電話で聞いてすまそうとするとか、図書館員の技量を試すためだけに問題を出してくる(←本当にこういう利用者はいる)ときとか!
 で、副館長の出した「課題」が、まさにこれなんですよね。こんなの、レファレンスじゃなくて、ただのクイズじゃん。いったいどんな局面であれば、あの本を探すのに、あの二つの条件しか分からない事態になるのか、私には想像がつきません。副館長ほどの人物であれば、人生において解決したい疑問の一つや二つ持っているはずなのに、なんでこんな、ただ図書館員を困らせるためだけのつまんない問題しか提出できなかったのか、不思議でなりません。出すなら、老婦人や議員が出してきた、その課題を解くことによって、出題者の心が開かれるような、そんな問題を出して欲しかった。
 ふたつめは、最後の課題に主人公が答えなかったこと。
 原稿書くときは何も参考にしなかったと言っても、それまでに読んできた様々な図書館についての資料が、あの考えの礎になったはず。それなのに、せっかく市長に図書館を知ってもらえる絶好の機会に、なぜ一冊の参考文献も紹介できなかったのか。あほかーっと、小説の登場人物に本気で腹を立ててしまいました。脇明子の『読む力は生きる力』とか、紹介できたんじゃないの!?
 でも、これが、この著者のスタンスなんだろうなあ、と思います。なぜかというと、この作品自体にも、巻末に参考文献があげられていないから。こういう職業小説には大抵巻末に、参考にした資料や、取材先への謝意が記されているものですが、この本にはないんですよね。著者はすごくよく現在の図書館事情を調べていると思うんですが、それを読者に紹介する気はない。この本でレファレンスサービスに興味をもった読者がいても、そこから広げていくことはできないわけです。些細なことですが、すごくがっかりしました。

 2点と言っても語りすぎだ(-_-;)。逆に良かったところ。
 行政の一機関である公立図書館の立場や、図書館機能の柱となるべきレファレンスサービスという、図書館の世界でホットな課題を取り上げているところは慧眼だと思いました。特に、公立図書館の図書館員は、司書という専門家(スペシャリスト)である前に(あるいはあると同時に)、公務員というジェネラリストとして、管理運営能力も必要とされるんだという考え方には、私も賛成です。ですから、主人公の異動先は、そんなに悪くないと思っています。主人公は、そこで簡単に諦めず、腐らずに、行政マンとしても技能を身につけた上で、いずれは図書館長として図書館に戻って欲しい。今の時代、残念ながら図書館員がただの専門家であっては、誰にでも無料でサービスできる公立の図書館は守れないのですから。
 公立図書館の司書の採用試験に、「最後の仕事」を読ませて、参考人招致の原稿を書けという問題を出したら面白いんじゃないかな、と思いました(公立図書館の司書採用そのものが今はほとんどないという情けない現状はおいといて)。