星間商事株式会社社史編纂室

星間商事株式会社社史編纂室
 コミケなら、本当に裏社史売ってそうだ。
 最初ルビが見えなくて、「せいかんしょうじかぶしきがいしゃしゃしへんさんしつ」と読んでいたので、「社に秘められた過去」は「創業者が実は宇宙人」とかだと思ってました。
 現在も続く星間商事の悪習の撤廃は、物語終了後に持ち越されてしまったので、カタルシスが薄れてしまったのが心残り。会社が隠したがる「過去」も、あまりしっくりこなくて気になった…。
 しかし、正史に掲載を阻まれた歴史を、裏社史としてコミケで販売する(こっそり正史にも挟み込む)というアイデアは楽しかったです。ちっちゃな反乱ではあっても、書かれたものはいつか誰かの心に届くと信じ、書き続ける人の心意気が頼もしい。
 アラサーの女性が直面するあれこれや、星間商事の過去をさぐるなかで出来する事件と平行して、「本を作る」(正社史も裏社史も)過程が詳しく書かれていて、それがとても楽しそうでした。「中身」を執筆するだけではなくて、表紙のデザインを依頼したり、印刷業者を探したり、口絵の写真を撮ったり、部数を決めたり、搬入したり、頒布の手続を取ったり、発送作業をしたり…大変だけど、その大変さを上回る「何か」が、「表現する」という行為にあるのだろうし、そういった一連の作業そのものもきっとクセになっちゃうんだろうなあ。
 自身も「腐女子(自称したことはない)」である著者が、いい感じに力を抜いて(いるように見せて)書いた楽しいエンターテイメント小説でした。