恋細工

恋細工
 錺職の椋屋四代目春仙は後継者を定めず三十四才の若さで世を去った。遺言により、幼少の頃から密かに細工を教わっていた三代目の娘お凜が、五代目春仙を決める役目を任される。お凜は、禁制の奢侈品をつくった廉で手鎖の刑を受けていた渡り職人の時蔵を、五代目候補として迎えに行くが…。
 天才肌だが性格に難だらけの時蔵に、お凜が次第に惹かれていく様子が、贅沢品を厳しく取り締まった天保の改革を背景とする様々な出来事を通して、丁寧に描かれていきます。ただし、私はどちらかというと、タイトルから想像される甘やかな恋模様よりも、お凛や時蔵、椋屋の職人たちが細工に賭ける熱い思いに興味を引かれました。
 あと、お凜が細工を志した最初の理由となった、親友のお千賀との友情がよかったな。どちらかが折れそうなとき、必ず一方がそばに行って一番欲しい言葉を言ってあげられる関係って羨ましいです。ファッションリーダーのお千賀と、抜群のセンスを持つお凜が生み出す飾り細工の描写にわくわくしました。お凜が最初にデザインした鼠の簪や、野菜籠の簪は私も欲しいなあ。 私の好きな雪花模様が物語に重要な役割を果たしていたのも嬉しかったです。雪花はデザインしがいがあると思うんですが、今の和風柄には少ないような気がするんですよねー。
 お凜の想いが時蔵の望みと重なったかどうかは永遠に分かりませんが、細工を通して時蔵と、そして多くの人々とともに未来を歩いていこうとする、清々しいヒロインが大変魅力的な作品でした。