妖怪天国ニッポン−絵巻からマンガまで− in兵庫県立歴史博物館

 待ってれば、京都国際マンガミュージアムにも来るのですが(もちろんそちらにも行くのですが)、今日は、企画学芸員であり『江戸の妖怪革命』の著者である香川雅信氏の講演があるというので、行ってきました。姫路の町が好き、というのもあります。
 妖怪をビジュアルでとらえると、恐怖や畏敬の対象というよりも、滑稽や風刺として描かれていて、それは現代のマンガに継承されている…という流れで、絵巻物や浮世絵、紙芝居、マンガが展示されていました。従来の妖怪展で見たことのあるものが多かったですが、「兵六夢物語」とか何度見てもいいものです。「稲生物怪録絵巻」のなかには、指からさらに手が枝分かれしていく不気味なものがあって、初見でした。これは気持ち悪い。
 文献だけではなく、切り絵や、京極堂シリーズの文庫表紙を飾る荒井良の造形など、立体物もありました。稲生物怪録に登場する巨大な舌長婆を再現したものもあって、蚊帳の中に入って平太郎気分が味わえるようになっていました。好奇心に負けて蚊帳の中までは入ってみたけれど、寝転がるのは恥ずかしくてできなかった…いくじなし! あと、諸星礼二郎作品に出てくる埴輪の模型や、「描き損じのある妖怪絵巻」の実物(?)などもあってファンにはウキウキでした。
 香川雅信氏の講演「妖怪マンガと民俗学」は、現代の妖怪マンガが民俗学の成果をどのような形で取り入れていったのかを概略したものでした。柳田国男や江戸の妖怪画の知識をバックボーンとした水木しげるから、民俗学の知識のみならずその手法やスタンスまでも作品に組み込んでいった諸星大二郎を経て、学校の怪談ブームをいち早く取り入れた「地獄先生ぬーべー」、民俗学に基づいた妖怪に新解釈を加えた熊倉敏雄「もっけ」、オカルトやナショナリズム偽史民俗学の負の側面をあぶり出した大塚英志まで、好きな漫画のタイトルが次々とあげられていて壮観でした(「うしおととら」「百鬼夜行抄」も取り上げられていました)。マンガの中の「民俗学」は、学術的な民俗学とはかけ離れた学説がほとんどだけれど、その検証不可能な妖しさこそが、クリエイターの想像力を刺激する魅力の源泉である―とうまく落ちていました。京都国際マンガミュージアムでは、マンガという観点から展示物をやや絞り込んで、読書コーナーなどを設けて複合的に楽しめるようになるそうなので、こちらも楽しみです。