仏果を得ず

仏果を得ず
 表紙が、表紙が勝田文さんだ。それだけでもうにやにやしてしまいます。当然これはコミカライズをしてくれるんですよね、双葉社さん。「むかしのはなし」あたりでは、ちょっと無理して背伸びしてる感じがした三浦しをんさんですが、直木賞を取って吹っ切れたのか、次々と「らしい」作品を発表するようになって、嬉しい限り。
 文楽と男同士の熱い関係という三浦しをんのシュミが炸裂した最新刊。しをんちゃんは、ガチで書くより、匂わせるだけの方がずっと色気のある文章になるので、この方向がいいと思います。健が兎一郎の三味線の音を想うシーンなど、いっそすがすがしいほどBLです。
 素直な健が三味線の音に自分の声を乗せる太夫で、無口で人を寄せ付けない兎一郎が太夫の謡を自分の音でリードしていく三味線である配役は、三浦しをん文楽理解がそのまま当てはめられています。だから、健は兎一郎の説明不足の台詞でも、その真意が汲み取れて、ちゃんとコンビをやってける。そして、健がそういう「耳」を持っていることを見抜いて、二人をくませた銀太夫が健の才能を買っていることも同時に分るようになっている。あいかわらず、小説全体の組み立てがうますぎる。