緑の模様画

緑の模様画 (福音館創作童話シリーズ)

緑の模様画 (福音館創作童話シリーズ)

 引き出しの中のセーターが、前に積んであった雑誌のせいで取れなかった…そんなささいなことがきっかけで、何もかもがイヤになって、部屋に引きこもってしまったまゆ子。こう書くと大変性格の悪い弱い子のようですが、思春期の女の子の不思議な不安定さを出すだけのエピソードのようで、本編中は穏やかないい子です。まゆ子がなんとなく外出したくなったときに、母にお使いを頼まれた女子寮にいた二人の少女との、春休みの出来事が綴られていきます。『わたしたちの帽子』でも描かれた、時間の流れがゆがむ奇妙な場所というテーマを、空間的に広げたものでした(「帽子」ではビル内だったのが、「模様画」ではひとつの街全体となっている)。三人の少女が仲良くなるきっかけが『小公女』だったように、古風な少女小説の雰囲気を持っています。そのあたりで、好き嫌いが分かれる作品。わたしは、嫌いではありません。
 さて、この本、図書館で借りてきたのですが、実は、本編よりも本に挟まっていた物に心を動かされたのでした。それは、色鉛筆で描いた4枚のワンピースを、丁寧に切り抜いたノートの切れ端。花柄の緑のワンピース、ピンクと緑のチェック柄、茶色いボレロを羽織ったピンクのフレアスカート。女の子の夢がつまった実に可愛らしい色とデザインで、これを見つけたときには、心臓が痛くなるくらいビックリしました。この本を読んだ子が、登場人物達に着せるつもりで描いたのでしょうか。嬉しくなるような微笑ましい忘れ物で、もちろん、挟んだまま返却しました。