怪談

 お手本みたいに手堅い映画だった。押さえるポイントを的確に押さえて、映画に関わる人全てが自分の仕事をきちんとしていて、つまり、ちゃんとおもしろかったのだ。
 主人公の新作は、長唄の師匠をたらし込んで、商家のお嬢さんを手にかけたあげく、入り婿先の家まで壊滅させてしまうような、どうしようもない男なんですが、悪人じゃないんですよね。弱くもないし、優柔不断と言うほどでもない。ただもうひたすらに運のない男としか言いようがない。その運の悪さが、親の因縁なのだからやりきれないです。尾上菊之助は、まつげがばっさばさで、独特の雰囲気がありました。
 終了後、他の観客の感想を小耳に挟んだところ、もっとばんばん幽霊が出て驚かすのかと思ってたから、拍子抜けしたと言っていました。そうかー、期待されているホラー映画ってそうなのかなあ。私は、怪奇表現を押さえた演出が気に入ったんですが。こう、生身の人間が、普通に暮らして幸せになろうとしているのに、その底流にはあの世からの冷たい水がひたひたと流れていて、どうあってもその影響から逃れられない…ということがじんわりと恐ろしい。