一瞬の風になれ 第一部 イチニツイテ

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

 森絵都『DIVE!!』、三浦しをん『風が強く吹いている』、あさのあつこ『バッテリー』。今まで読んだスポーツ小説の共通点や相違点を楽しみながら読みました。『バッテリー』の二番煎じだという人もいるけれど、私の中では『DIVE!!』に近い印象でした。作者の気持ちのおもむくままに書きたいことをぶつけて書いた、という感じの『バッテリー』よりも、しっかり構成を練ってキャラクターを物語のために制御して動かしている印象は『DIVE!!』と共通しています。それに、どこか淫靡な『バッテリー』とは違って、要所にしょーもない「笑い」の入る爽やかさはやっぱり『DIVE!!』だと思うなあ。
 チームじゃないと競技が成り立たない「野球」でもなく、究極的には個人の戦いである「飛び込み」でもなく、個人競技でありながら、襷やバトンをつないでいく団体戦でもあるというおいしいところをうまく書いている点は、『風が強く吹いている』を想起させます。それぞれの走りは個人のものだけど、走りを目指す想いを分かち合うというのは、私には経験したことのない感覚で、羨ましいようなまぶしいような思いが新鮮でした。特に2巻の最後の駅伝で、新二がチームメイトを応援するところでは、一緒に蛇口の栓がゆるんでだだ漏れになってしまいました。