きつねのはなし

きつねのはなし

きつねのはなし

 う、うまい。
 『太陽の塔』と『四畳半神話体系』で、非モテ妄想男子を主人公にしたユーモア青春小説で話題になった著者が、今回、怪奇趣味の横溢した幻想小説にがらっと作風を変えてきた。京都を舞台にリアリティのある登場人物を動かすことで現実に近い確固とした世界を描き出しながら、その向こうに胴の長いケモノや狐面の男の巣くう魔界の気配を濃厚に感じさせる手並みはお見事としかいいようがない。「芳蓮堂」という骨董屋によってどの話もリンクしているようで、実はつじつまが合っていない設定は、通読した読者をいっそうの混沌と幻惑に誘う罠のように思える。唯一『太陽の塔』と通じると思えた硬質の文体も、目に心地よく、狐の面を配した装幀もとてもいい。手元に置いて寝る前にちびちび読み返したくなるような本だった。
 ホントに日本ファンタジーノベル大賞受賞者は化けるなあ。図書館で予約した『夜は短し歩けよ乙女』も楽しみ。