人誉幻談 幻の猫

 金沢の零細出版社亀(旧字)鳴屋(カメナクヤ)が限定514部出版した本である。自費出版に限りなく近く、もちろん1SBNはついていないので、国立国会図書館にもない。書店では売っておらず、通信販売のみ。東雅夫氏のブログで紹介されなければ、存在すら知らずにいただろう。読みたければ、購入するか、持っている人に借りるか、古本屋で探すほか方法がない本というのがこの世にはあるのだ。後者は、砂漠で砂粒を見つけるほど難しい…これって『中庭同盟』みたいだな。
 装幀も普通ではない。活版印刷の題字に、モノクロの写真が貼られた表紙、実物は初めて見るフランス装という、商業出版ではあり得ない装幀。活字の大きさ、形、ページの余白もゆったりととられ、実に読みやすい。
 昨年2005年の7月に買って、気が向いたらぽつりぽつりと一編ずつ読んでいた。解説の和田誠は冬の数日を、御馳走を食べるようにちびちびと読んだそうだが、わたしは1年かけてしまったわけだ。
 存在、内容、装幀すべてにおいて、味わい深く、世界の奥行きに感じ入った一冊だった。