短編集バレンタイン

短篇集 バレンタイン

短篇集 バレンタイン

 翻訳者柴田元幸によるオリジナル短編集。いわゆる「奇妙な味の小説」である。
 キーワードは「郷愁」と「夢」だけど、後味は寂しかったり意外とブラックだったりして油断がならない。出てくる人物や場所には具体的なモデルがあるようで奇妙なリアル感があり、それがいっそう現実からの浮遊感を増幅する感じがする。
 情けなくも切ない「書店で」、スプラッタ・コメディの「映画館」、あるあるこんな夢!と手を打った「卵を逃れて」など。肩肘張らずに気楽に読める、いかにもアメリ現代文学の翻訳者らしい短編集だった。
 以前『どこにもない国』を読んだとき、訳があわないのかもーと言ったけど、前言撤回します。オリジナルの文章がこれだけ読みやすいということは、訳文も原作の文体を生かしたものだったはずで、ようは訳のせいでもなんでもなく、わたしの歯が立たなかっただけという話。申し訳ありませんでした。