092山賊のむすめローニャ

山賊のむすめローニャ (岩波少年文庫)

山賊のむすめローニャ (岩波少年文庫)

 前言撤回。リンドグレーン最高!
 山賊の頭の娘として生まれたローニャが、両親と山賊仲間の愛情をたっぷりあびて、美しく厳しい大自然の中でのびのびと育っていく様子には、思わず笑みがこぼれてしまう。子どもがまっとうに可愛がられて育つ情景は、この世でもっとも幸福なもののひとつだと思う。
 怪鳥「鳥女」や「地下にひそむもの」、くらがり小人などおとぎ話の生き物たちも生きているローニャの山は、時には命の危険にもさらされるが、それすらも魅力的な子どもの楽園だ。ローニャがいがみ合う親たちに反発して友達のビルクと一緒に家出した洞窟での暮らしにあこがれない子どもはいないだろう。
 脇を固める大人も実に魅力的だ。わたしが好きなのは、直情径行の夫をしっかり支える理性的なロヴィス母さん。広い度量の持ち主で、好みも考え方もちがう敵方の妻と、ゆっくり食事をしながら仕方のない夫について語り合える。それから、最長老の山賊仲間で、ローニャにとってはおじいちゃんのような存在のスカッレ・ペール。最初は弱々しい老人にしか見えないのだが、最後に見せたすばらしい智慧と意地には、胸を打たれずにはいられない。