落下の王国

 無声映画のスタントマンだった男は、撮影中に鉄橋から落ちて大けがをする。下半身不随と恋人の裏切りに絶望した男は、同じ病院に入院している少女に出会い、たわむれに物語を語りはじめる…。現実世界と空想世界が万華鏡のように入り交じる映像世界は、「パンズ・ラビリンス」のようでした。ただ、空想の世界が少女とスタントマンの青年が作り出したもののためか、単調で少し退屈なところがあって、そこが難点かなあ。13カ所の世界遺産を舞台に使ったというだけあって、映像は美しいのだけど、その映像に命が通っていないというか。舞台と衣装に頼りすぎているきらいがあったように思います。
 主人公の少女が、とってもいきいきしていて物語に精彩を与えていました。きれいで可愛い子というわけではなくて、ちょっとブチャイクなんですが、何ともいえない愛嬌があって観客を魅了します。男のだめっぷりとの対比が素晴らしい。このスタントマンさん、大けがをして恋人に裏切られたと思いこんでいますが、どうも見ていると、映画会社はちゃんと補償をしてくれて、怪我も治りそうな雰囲気だし、恋人というのも元々片思いだったんじゃ、と思わせる描写があって、自分で思っているほど不幸ではなさそうなんですが。
 ここからちょっとネタバレ反転します.
この映画からは、人を癒しもするし狂わせもする「物語の力」への憧れが伝わってきました。男は物語の続きを聞かせることを条件に、5歳の少女に自分が自殺するための薬を取りにやります。自殺が成功したら、少女が傷つくんじゃないかとか、考えられないくらい男は自分の傷で精一杯。そして、薬を取ろうとした少女は、再び落下し、重傷を負ってしまいます。傷ついた少女の元で、男は再び語り出します。ヒロインに裏切られ、仲間が次々と死んでいく絶望の物語を…。少女は「これはあなただけの物語じゃない、私たちの物語だ」と男に結末をハッピーエンドに変えるように迫ります。ここで少女が物語の結末を変えることが、男の再生に繋がることをうすうす感じ取っているような演出が面白かったです。