天平冥所図会

天平冥所図会

天平冥所図会

三笠山」「正倉院」「瀬田大橋」「宇佐八幡」
 教科書で見たことある歴史上の人物が、歴史的事実をそれほど大きく崩さずに、ここまでキャラ立ちしていることにびっくり。うまいなあ。
 主人公の戸主(へぬし)が、聖武天皇の遺品を正倉院(作中まだこの名はない)に収めるための目録を作る「正倉院」がずば抜けておもしろかった。こう、右から左というわけにはいかなかったんだという当たり前のことに気がついたというか。品物全ての素材や技法を調べて、名前をつけ、リストにし、清書していくという、実にルーティンなお役所仕事の上に、後世まで伝えられる国家事業が成り立っていることに、感心する。そこに、過労死した新米役人の幽霊が現れたり、献納を政治に利用するために仕事に横やりが入ったりと、実にドラマティックな要素がちりばめられている。古代日本を舞台にした時代小説は、田辺聖子里中満智子くらいしか読んだことなくて、それは権力者のお話だったので、こういう平の役人を主人公にしたものはとても新鮮だった。
 他の3編も大仏建立工事の中で起った殺人事件を取り扱ったり、国家を二分する大戦争をとんでもない視点から描いてあったりして、飽きさせない。単純な連作短編集ではなくて、一話ごとにだいぶ雰囲気が変わっているのもおもしろかった。

 装画はどこかで見たことあると思ったら、『僕僕先生』の三木謙次さんだった。「僕僕〜」が内容に比して評価高いのは、あの表紙に助けられたのも大きいと思う…。「しゃばけ」の柴田ゆうさんといい、日本ファンタジーノベル大賞受賞者には、いいイラストレーターさんがついてますね。