下町不思議町物語

下町不思議町物語 (YA!フロンティア)

下町不思議町物語 (YA!フロンティア)

 直之を取り巻く人の善悪バランスがうまい。不思議な力を持つ特別な人だけが、主人公を助けるわけではないところがいい。仕事の忙しい気弱な父が、直之を愛してるのは間違いないし、それは直之にもちゃんと伝わっている。直之を気に入らずに陰湿ないじめを繰り返すクラスメートがいる一方で、直之の努力をきちんと見ている先生と友達がいる。そして、その上で、居場所を見つけられない直之に、居心地のよい場所を提供する「不思議町」の大人たちがいる。彼らは、くじけそうな時にちょっと居場所を提供してくれて、ほんの少し日常の暮らしに戻る手助けをしてくれるだけで、決して全能のお助けヒーローじゃない。「息子と駆け落ちした娘の子」である直之を許せなかった厳格な祖母が、直之のぬくもりに触れて心を溶かすシーンは、素直に感動的だった。
 ややもすれば説教くさくなるところを、不思議町の住人たちのキャラクターと、軽妙な関西弁とで、抜群のエンターテイメントに仕上げている。小学生に大人気の香月日輪を初めて読んだけど、本当におもしろいね。「妖怪アパートの幽雅な日常」シリーズも読んでみようっと。

 某超有名アニメーションをダイレクトに持ち込んでいるのは、現代の子ども達の「不思議」原体験の大元のひとつだからかなあ。たしかに、実体験で、夜の闇や自然の不思議さを感じた経験のある子どもは少ないかもね。