烏金

烏金

烏金

 あーほんとだ、ゴメスよりおもしろいわ、これ。ファンタジーノベル大賞受賞作家には、化ける人が多くて、これ一作ではまだ判断がつかないけど、西條さんは「化け」組にはいる可能性が高くなってきた。
 ちょっと前にテレビのニュースで「返せない借金はない」として、多重債務者の借金返済を手助けする弁護士の特集をしていました。これは、その江戸版、ただし、第三者でなく、金貸しがそれをやるというのがちょっとかわってます。
 借金をする人は、侍から八百屋の親父、母子家庭の小娘までさまざま。偏屈な金貸し婆のお吟に、ある目的を持って近づいた浅吉は、焦げ付きそうな彼らの借金返済のために生活再建の手助けをします。地に足をつけた浅吉の地道な工夫から、江戸の庶民の暮らしぶりが浮かび上がってくるところが、とても上手い。金儲けのためとはいえ、路上で掏摸やかっぱらいをして暮らす浮浪児たちに商売のやり方を教えるという、「社会起業家」のようなことまでしています。登場人物もひとりとして顔のぼやけた人はいなくて、いつのまにか手に汗を握って彼らの生活を応援したくなってしまう。隠された浅吉の思惑にはらはらしましたが、最後は、ほろりにやりの大団円となりました。これはおすすめ!
 参考文献にあげられていた『ムハマド・ユヌス自伝』というのが気になる…。