蟲師

 1.原作は忘れる
 2.大友監督の映画として見る

 実質的には同じことですが、この2点を肝に銘じておいたせいか、腹を立てずに見られました。
 「姑獲鳥の夏」(実相寺昭雄 2005)や「奇談」(小松隆志 2005)を楽しく見てしまった人間の感想ですが、意外と悪くないと感じました。
 ただ、「ぬい」というキャラクターを大切に思う人で、原作と完全に切り離す自信のない人は見ない方がいいかも。


 とりあえずは悪いところから。
 「原作を知らないとわかりにくい」と言われていますが、ギンコの過去と現在が交互に描かれる構成は、確かに不親切。原作付きの作品を映像化する時に、原作を知らないと分からないような脚本を作るのは、制作者側の怠慢なんじゃないかなあ。
 さらに、後半部分は「原作を知っててもわからない」よ! トコヤミに飲まれたぬいの「その後」なんて原作にないんだから。解釈そのものはおもしろいし、トコヤミの池のでき方なんか、説得力あったのに、あまりにも唐突に終わりすぎ。自分でも知らない間に寝ていてエピソード落としたのかと思った。それまでそこそこ悪くなかったのに、あのラストでドカンと評価下がっちゃった〜。

 良かったところ。
 いくつか「蟲」のあり方を原作と変えている点があって、それは原作よりも理に適ってました。「阿」が寄生したときにできる角が「口云」の殻になるというのは、説得力あります。(でも、やっぱりどの解釈も、オチでよく分からなくなっちゃうんだけど…ツメが甘いってことか)。虹蛇を追う虹郎と、淡幽のエピソードをつなげるあたりもうまかった。原作だとバラバラだったそれぞれのエピソードが、かなり工夫されて自然につながっていたので、この点は原作を知るものとして大友監督の発想の柔軟さを素直にすごいと思います。
 そして、原作者が感動した意味も分かりました。「蟲師」という職業や、里に暮らす人びとの生の営みが、土の手触りがするようにありありと描かれていた。まるで、本当にそこにあるように。細かい小道具にいたるまで、神経をつかって「100年前の日本」とも少し違う異時空間を作り上げていて、その世界に引き込まれました。蟲のCGも良かった。ちょっと実態がなさ過ぎてはかない感じでしたが、うまく実際の映像にとけ込んでいました。特に夜に立ち上った虹蛇の美しさは圧巻。
 キャラクターもそれぞれ違和感ありませんでした。公開前に絵だけ見ると怖かった真火ちゃんも、けっこう可愛らしかったし、淡幽は凛とした美しさで、ギンコと散歩するシーンなんか、とっても良かった。一番だったのは、虹郎をやった大森南朋さん。脚本のせいでなんのために虹を追っているのかよく分からなかったのに、ギンコと行動をともにすることに、違和感を感じさせない存在感を出した名演技でした。ギンコやお玉さんにあごで使われる情けなさや、未来を信じる一途さがとっても愛嬌があった。別れの時の「お前(ギンコ)は生きてるよ、淡幽さんの足も治って、二人で旅をするんだ」のあとの台詞が、「それで二人で俺の造った橋を渡るんだ」だったら、ちょっと泣いていたかも。

 全体の感想としては、もうちょっと脚本がしっかりしていたら、かなり好きだったかもしれないのに〜でした。