第十五話「春と嘯く」

脚本 桑畑絹子
絵コンテ 山川吉樹
演出 小田原男
原作 『蟲師』4巻「春と嘯く(はるとうそぶく)」p91〜
DVD 其之陸

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 2週続けて寂しい結末だったので、暖かい春の景色にほっとします。この話、「蟲師」のなかでもかなり好き。
 雪の降り方が違うのがすごい。ギンコ登場のシーンでは、よく見ると雪の結晶がくるくると舞いながら降っています。ミハルを探しに行くときの雪は、重くまっすぐに降ってくる。雪を見ない土地で育ったせいか、雪国の話(「柔らかい角」「錆の鳴く声」「雪の下」)にはとても惹かれます。
 ヒロインのスズがやっぱりいい。最近はやりのツンデレっていうわけでもなく、気が強いけどいつもすごく素直に自分の感情を表すところが。

 今回の絵コンテは、冒頭の「春よこい はやくこい まがいものでもかまわないから」というナレーションがないくらいで台詞はほぼ原作通り。山川さんの描くギンコは、なかなかハンサムで爽やかな好青年です(笑)。この絵コンテで秀逸なのは、スズがギンコに滞在をすすめるところで「異性ではなくたよれる父性に安心な…生っぽくならない」という注がついているところでしょうか。アニメ「蟲師」はギンコ×淡幽推奨だから(笑)。スズは16歳くらいかなあ、30前くらいのギンコとは一回り年が違うのでしょうか。父性というより、お兄さん? ミハルの保護者としてがんばっているスズも、まだたよれる人が欲しい年頃ですよね。
 もう1カ所笑ったのは、春まがいの林に踏み込んだギンコが眠ってしまうところ、「まだがんばって… こときれる」。ってギンコ死んじゃってるよ!(爆)絵コンテは、こういう細かいコメントがとても楽しいです。春の景色を「原作通りで あのキレイさは書けません」と告白しているところも微笑ましかった。
 スズがギンコの腕を取って額を押しつけるシーン、ギンコのすごい格好いいアップが削除されてます。萌えシーンを徹底的に控える、とても禁欲的なアニメだわ。
 ギンコが木箱を持っているかいないか、も常に気を配られています。ほとんどの場合、少し外に出るときにも持ち歩いていて、何か蟲を見つけたらいつでも調べられるようにしているのが分かります。そして、いつでも旅立てるように…ということなんだろうな、と思うと少し寂しいような気も。最後、春爛漫の林を歩くギンコとミハルは、春まがいの群生地を見に来ているんですね。「そこら中にいる空吹のさなぎ」を絵コンテに描いてあるので、原作とアニメ両方確認したら、確かにどちらにもサナギがいっぱい描かれていました。気がつかないよ! 群生地を見に来てそのまま行こうとするギンコを、ミハルは引き留めたんでした。ギンコは、蟲を研究して旅しているから、また来ることがあるかは分からないけれど、スズやミハルが結婚して、子どもがたくさんできて、賑やかになったあの家に、いつかギンコがふらっと立ち寄ることがあればいいなあ、と思います。