平成17年度国際子ども図書館 児童文学連続講座講義録「日本児童文学の流れ」

 神宮輝夫氏の戦後直後の日本児童文学の状況は初めて知ることで興味深かった。由利聖子の名前はかろうじて聞いたことがある。
 「童話の系譜」
 宮沢賢治小川未明に代表される詩的な言葉で心象風景を描く「近代童話」と、散文的な言葉で子どもをめぐる社会を描く「現代児童文学」を、比較論考したもの。詩的なものは短く、散文で社会を描くときには長編になりがちなので、現代の児童文学には長編が多いという説明には納得。ただ、これはどちらがいいというわけではなくて、子どもにはどちらも必要なんですよね。今は散文的な物語に力量のあるものが多くて、詩的な童話で優れたものが少なくなっています。あまんきみこさん、立原えりかさん、安房直子さんに続く若い人は出ていないようで、それも問題だと思うのですが。
 「「タブーの崩壊」とヤングアダルト文学」
 かつて日本近代文学が果たしていた、人生について考えるという役割を今のヤングアダルト文学が果たしているのではないかなど、示唆に富んだ刺激的な論考でした。崩壊したタブーとは、性・死・家出・離婚で、これは子どもが負う三重の不自由「与えられた身体(性別も含む)、生まれさせられた生、すでにある親」と対応しているとの指摘にはびっくりしました。「自分に与えられた条件を自分で選んだことのように引き受けて、プラスに転じていくことが大人になること」なんて、この人の文章そのものが面白い。まだ未整理な部分があるということなので、是非発展させて一冊の本にまとめて欲しいです。
 「4人のジャパネスク・ネオ・ファンタジー作家たち〜小野不由美を中心に」
 井辻朱美さんは小野不由美を軸に据えて、荻原規子上橋菜穂子梨木香歩4人の作家のファンタジーをめぐって作品解題をしたもの。悪霊シリーズが取り上げられていてびっくりしました。是非再版して欲しいのに何故か再版されないシリーズなどと言われています(笑)。取り上げられて作品はすべて読んでいるので、すいすいと読めました。にしても、この講座を聴きに来た図書館員はほとんど小野不由美を知らなかったとかで、井辻さんがショックを受けておられましたが、きっと公務員畑の人たちだったのではないでしょうか。
 「エンターテインメントの変遷」
 児童文学やヤングアダルト、そしてライトノベルを語るのに外せない、でも語る人の少ない挿絵の問題に触れられていました。
 
 普通の本屋さんには置いてませんが、国際子ども図書館ホームページでPDF版を読むことができます。