本の元の穴の中

 鬼の角を持つため村人に避けられていたキイチは、ある日村に来た貸本屋、元太郎が本の中から鬼を出しているのを目撃する。書かれたものが具現化するこの世界では、書物は本処(げんしょ)という場所に納められ、一般の人間は所有することができない。彼らに本を貸し、万一具現化したときにはそれを「仕舞う」のが元太郎たち貸本屋の仕事だ。元太郎の持つ鬼の知識を求めて、キイチは押しかけ弟子になりともに旅をすることになる。自分の正体を知るために、自分自身に誇りを持つために。

 「蟲師」を人にすすめるときに「越中富山の薬売りみたいな〜」と紹介したことがありますが、技能者が旅をしつつその技をふるう、という話が私は好きだったりします。絵の描き方とか、たぶん意識していると思うのですが。荒削りながら、独特の世界を築いていきそうで、続きが楽しみな新人さんの作品です。