鯉浄土

鯉浄土

鯉浄土

 「女」をテーマにした重厚な短編集かと思いきや、「力姫」のような力強く明るくも入っていて、息苦しいだけの読後感には終わらなかった。ひ孫に「ももたろう」を語る祖母の一人称で描かれた「力姫」は、絶対弱者のくせに「生命」そのものである赤ン坊のふてぶてしいまでの強さが明るい笑いを誘う。孫娘を主人公にしたデタラメ桃太郎が面白くて仕方がないが、最後にはお供も連れずに一人雄々しく旅立っていく「ももたろう」の姿に、この世界で生きていく赤ん坊をダブらせた構成の妙にはうならされた。
 乾いた筆致なのに、何故かしっとりとした湿り気を感じる。その水分が、作品によっては、爽やかなわき水だったり、地下を流れるくらい水脈だったり、くぼみにたまった澱みだったりする。著者が、女として、妻として、母として、祖母として、主婦として、重ねた経験を作家として縦横に描いた味のある短編集だった。