煌夜祭

煌夜祭 (C・NOVELSファンタジア)

煌夜祭 (C・NOVELSファンタジア)

 まずは、裏表紙のあらすじにもの申したい。「今年もまた二人だけの煌夜祭が始まった」これでは、二人の語り部が毎年一緒に煌夜祭をしているように読めませんか? 少なくとも、私はそのつもりで読み始めたので、軌道修正するのに少し手間取りました。この手の、著者以外の人がつけている帯とかあらすじとかを信じてはいけないものなのでしょうが、「今年もまた」さえなければ、なんの問題もなかったのが残念です。

 さて、FT系のブログで評判の新人さんです。
 私は作家の立ち位置とか、文学史的な流れで、というような評論的な読み方ができないので悔しいのですが、新人ということで評価されているところがあるのかな、と思いました。それと、後は好みの問題でしょうか。いろいろな人が誉めているのに、どうしても上手く取り込めなかった物語は、つい「何故なのか」を考えてしまいます。一番感動的なネタも割ってしまうので、読んでいない人は以下読まないでください。


 冬至の夜、人を食う魔物をなだめるため語り部が夜通し物語を語る、そのひとつひとつの物語から大きなひとつながりの物語が見えてくるという構成は実に緻密に組み立てられていました。ひとつ読むごとに前の話を読み返して人物関係をつかみながら、最後はこう収束していくのか、と大いに納得できました。でもそこで私が感じたのは、納得であって感動ではなかった。何故でしょうか。

 私は、性差のある世界に住んでいるので、登場人物の性別が気になります。案の定、倒述によってムジカ(=クォルン)が女性であること、ガルンが男性であることは隠されていました。しかし、隠す必要があったでしょうか。この物語は「愛」の物語です。ムジカとガルンの、あるいはクォルンとエンの。最後まで彼らの性別を明かさなかったのは、かえって読者が彼らの思いに感情移入するのを邪魔していたように思えます。性別を隠すなら、この異世界で性差や同性愛がどのようにとらえられているのか、もっとしっかりと描くべきでした。現実世界の性差意識をそのまま使うなら、ムジカ(=クォルン)は男性でもよかったし、その方がよかったかもしれません。

 もうひとつ、せっかく魅力的な異世界を作ったのだから、語られる物語に創世神話を入れて、この世界の成り立ち、仕組みをもっと読者に説明して欲しかったです。第三話以降は、すべてごく最近(せいぜい2,30年)の出来事で、世界の広がりを感じることができなかった。せっかく不老不死の魔物という設定で、なおかつ最後にはその不老不死の謎が解かれるのだから、創世記からこの世界の歴史を俯瞰するような構成だったら、と世界観好きの私は思いました。

 あとは、土の毒を取り込んで浄化するムジカダケなど、あまりにも宮崎駿の世界がそのまま出ていて、「すべてのことには意味はある」というひとつの感動的なエピソードが上手く胸におちなかったのが残念。蒸気塔という駿っぽいテクノロジーも、もっと詳しく説明してくれれば…。

 と、こういうふうにいろいろと改善点が具体的に見えるところが今後に期待できる新人だということでしょうか。