海の休暇

 さすがに書庫でしたが、図書館にあったので借りてきました(何故か複本まである)。ブッカーもかかっていなくて、記名式のカードまで残ってます。背表紙はすりきれてて、カバンに入れて持ち歩くのが怖かった…。
 「マリアンヌの夢」の続編です。
 15才になって再びブライトンを訪れたマリアンヌの夏休みを描いています。異性に興味がないことで悩んだり、占いに夢中になったり、友達にお金を借りてしまって苦しんだり…まごう事なき直球のヤングアダルトでした。ですが、とにかく地味な上に、古くなっていて、今のティーンエイジャーに薦められるものではないとも思いました。児童文学は100年程度では古びませんが、ヤングアダルト小説では鮮度が重要な要素ですね。

 「これは王国のかぎ」の続編「樹上のゆりかご」を読んだときに感じたのと同じ、不思議な違和感を覚えました。彼女が、わたしがいつでも追体験できるあの出来事を忘れて、思春期の少女なって現実世界で「生きて」いたからです。小説の登場人物って、物語の終わりの「それから」を感じさせても、読者にとっては、年をとらないものです。それなのに、いきなり子どもではなくなっていて、友情に悩んだり、異性を意識したりしているのを見ると、とまどってしまうのでした。しかも、あれだけ鮮明だった出来事は、彼女を構成するほんの一部でしかなくって、記憶の底に沈んで思い出されることもないなんて。

 一人の人間を「キャラクター」としてでなく生身の「人間」として描いていて、本当に実力のある作家さんだと思いました。独立した小説としても読めますが、やはり「マリアンヌの夢」を読んでいると、いろいろなところで思い当たる節があり、著者の人物造形の巧みさにうならせられます。