キョウコのキョウは恐怖の恐

キョウコのキョウは恐怖の恐

キョウコのキョウは恐怖の恐

 漫画家にこんな小説書かれては、文章書きは顔色なしです。
 「狂犬」「秘仏」「貘」は、文字を追っていると自動的に諸星マンガが頭に浮かぶ。ぐずぐずと現実と幻想の境界が崩れていくような不安定な描線が、活字の間からもじわじわとにじんでくるようだ。3人の「キョウコ」のキャラも立ってるし。「秘仏」では、自分でも気づかないうちに不気味な世界に飲み込まれていくのが怖かった。ありそうな出来事をちょっとずつ重ねて徐々に引き込んでいく巧妙さ。
 「濁流」のもの悲しいラストは、諸星印とは少し異質で、それはそれでよかったと思う。
 諸星大二郎とは全く別の人が装丁すればおもしろかったのに。ビッグネーム抜きにしても、十分世に問える優れた怪奇小説だと思います。